「ひのもと政策」(日本型太陽政策)を提唱する―日朝関係打開へ向けて
1.
はじめに
現在、日本と北朝鮮との間の関係は、拉致問題をめぐる北朝鮮側の拙劣な対応と、日本国内における感情的な反感とがあいまって、戦後最悪といってもよい状態にある。勿論、拉致問題を初め、いわゆる「不審船」問題、「テポドン」ミサイルの発射実験などなどに至るまで、主として関係悪化の原因は北朝鮮政府にあるのはいうまでもない。しかしながら、戦後60年近く経過し、いまだに直接の戦闘を交えたこともなく、又東アジアで韓国とともに国際連合に加盟している北朝鮮と日本が、未だに国交はおろか非公式な形での外交交渉の機関を設置していないのは異常というより他はない。
さらに、拉致問題をめぐって被害者の家族や、又これらと連携している「救う会」幹部や、いわゆる政権与党の少なからぬ議員より、「経済制裁」「金正日政権打倒」などが主張されている。しかし、世界のどんな性格の政権であれ、その国の政治の誤りを正すのはその国の国民であり、またある国がテロ、または国家規模で行った犯罪を糾すのにその国の政権を転覆することが正当化されるのであれば、国際秩序は崩壊し、人類が多年にわたって築きあげてきた国際法体系も意味を一切なくしてしまうであろう。
また、現在の北朝鮮の政治体制を見るとき、いわゆる「経済制裁」が及ぼす影響は、少なくとも少数の国家の指導層(そしてその恩恵を受けている階層)にいくことは考えにくい。逆に、現在の政権の内部でむしろ抑圧、ないしは阻害されている階層にその被害が及び、かえって現在の政権の基盤を強化する―すなわち、日本側の対応にこそ問題があるという、権力側の宣伝に一定の真実性を与える―という方向へつながりかねない。これでは、民主化を願う北朝鮮の一般民衆はもちろんのこと、日本国内で民主化を願う多くの良心的な在日朝鮮人にも、かえって悪影響を与えてしまうことになるだろう。
本稿では、こうした現状を打開するための一つの試みとして、日本型「太陽政策」−「ひのもと政策」の提案を行いたい。これは、勿論一種の「たたき台」であるため、多くの民主的な活動家、市民、知識人・文化人の積極的な討論・議論が望ましいことは言うまでもない。忌憚のないご意見・ご提案をいただければ幸いである。
2. 日本と朝鮮半島の間に存在する「戦後処理」について
@ いわゆる従軍慰安婦問題、強制連行労働者の問題、文化財の問題
・
これらの問題については、引き続き日本国内にある関係官庁の資料、及び情報公開を実施させ、それに基づいていわゆる個人への補償、および未払い賃金の支払い、そのほか遺骨の返還、などといった処置を行う必要がある。
・
なお、北朝鮮から持ち出され、破壊されたといわれている文化財については、引き続き関係各団体と連絡を取り、真相解明と原状回復、または補償を行う。
A 第二次世界大戦中の国家賠償について
・
基本的には、「日朝ピョンヤン宣言」の精神をもとに解決していく方向で対応する。ただし、後述するような形で社会資本の整備については円借款の形態よりも、無償援助協力の形態で行う。
3. 日本人拉致問題について
@
いわゆる日本人拉致の真相解明と、その被害の実態、及び生存する被害者の帰国へ向けて、引き続き外交交渉を行う。なお、その際には北朝鮮側の軍部が掌握している「特殊機関」の当時の責任者、関係者を含めて、関連する物証、そのほかの資料をあらためて提出することを求める。
A
すでに帰国している拉致被害者については、その家族も含めて北朝鮮当局に対して精神的・身体的苦痛を配慮した形での個人補償を求める。この場合、実質的な「原状回復」は不可能なため、金銭的解決が中心となるが、そのほかにも、被害者当人が望む形での「賠償」があれば、北朝鮮側に応じるよう働きかける。
B
このほか、現在北朝鮮が公式には否定している「拉致被害者」についても、前述のように再度関係当局者に働きかけ、再々調査を行うよう要求する。
C
北朝鮮側に拉致の実行犯として現在生存している関係者については、引き続き引渡しを要求し、日本国内での刑法によって裁判を受けるよう要求する。このほか、拉致事件に関わったとされる特殊機関を含めた関係者についても同様の要求を行う。
4. 日朝国交正常化について
@
これについては、可及的速やかに「宣言」の精神にのっとり再開し、早急に連絡所、及び大使館級の外交連絡事務所を設置する。
A さらに、国交樹立後、北朝鮮の主要都市に、出来るだけ速やかに領事館、連絡事務所などを建設し、また将来進出が予想される日系企業のために日本人学校、及び宿舎などの建設を早急に行う。
5. 核開発問題について
@
いわゆる北朝鮮の「核開発」問題については、引き続き周辺諸国との「六カ国協議」を継続するとともに、KEDOによるエネルギー援助活動の再開を行うよう関係各国に働きかける。
A
なお、日本国内に度々寄港する米軍艦船については、かつての「神戸方式」の方法を踏襲し、核兵器を保有した米軍艦船が一切入港できないようにする。
6. 北朝鮮への援助について
@
現在凍結されている食料・医療援助については速やかに再開する。また、今後不足されると予想されている食糧については、引き続き現物支給を前提に国際機関などの援助・協力も得てモニタリングを前提にした形で、食糧事情が悪化している地方への援助を中心に行う。
A
医療そのほかの援助活動のため、日本赤十字社、赤十字国際委員会などを通じた医療支援ボランティアを募り、現地での診療活動を進める。その際、日本側より支援センターの設置、活動スタッフのための資金を提供する。民間のNGOとも協力し、もっとも緊急に援助が必要な高齢者、乳幼児、障害者などへの対策を早急に進める。
B
国内のインフラストラクチャーの整備などは、円借款の形態ではなく、極力無償援助の形で行う(主に病院、診療所、教育機関など)。その際、現場の仕事には極力現地の住民を採用することが出来るよう、北朝鮮側に働きかける。
7. 文化活動の交流
@
対外文化協会などの協力も得て、日本側の文化交流弾を組織する。ピョンヤンを中心に、各地で日本文化交流の集いや、日朝文化交流の夕べなどを行う。そのための「日本文化センター」の設立は必要不可欠である。
A
在日朝鮮人、日本人の文化団体・個人とも協力し、常駐的な文化団体の連絡事務所を設置する。
(以上)
【編集者注】 以上の投稿は、南雲和夫さんが「さざ波通信」に投稿した論考を、ご本人の了解を得て本欄に全文を転載しました。転載に際しましては、いくつかのスレッドを1つにまとめ、また読了の便宜も考慮して改行等の必要最小限の編集を加えています。