28 産直−連帯経済の可能性
(2005年2月22日) |
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今回は、産直について。 普通「産直」と言えば、スーパーの産直などがそうですが、単に「産地直送」という意味で使われます。生協の場合はそれだけではなく、産地(生産者)と消費者の提携=「産消提携」の意味で使われます。生協の農産品に付いている生産者カード(生産者名が明記されている)や、生協でよく取り組まれる産地交流見学会は、その実践例です。
生協の産直活動には、「産直三原則」というのがあります。 (1)
生産地と生産者が明確である事、(2) 栽培・肥育・肥培方法(農薬、肥料、飼料など)が明確である事、(3)
組合員と生産者が交流出来る事、の3つの原則です。これらの要件を満たして初めて、生産者の顔が見える、安心と信頼の商品が生まれるのです。そして、これが重要なのですが、その事を通して、消費者は安心・安全な商品を安価(適正)価格で購入できると共に、生産者(産地・農家)も減反・猫の目農政の下でも農産物価格を買い叩かれる事無く良い商品を安定的に供給でき、ひいては日本農業を守る事にもつながっていくのです。
生産者から見た産直活動の先駆的な例としては、大分県・下郷農協の活動が比較的有名です。この農協は、'60年代から「労農牛乳」(今風に言うと生協牛乳)の販売を始め、やがてそれが福岡地区の産直グループの活動と結びつき、北九州地域に生協が作られ、無農薬・有機栽培野菜や黒豚肉の生産・加工へとつながっていきます。
国産レモンの栽培も、生協を中心とした産直活動の中で始まりました。日本ではかつて、国産レモンの栽培がさかんでした。しかし'60年代のレモン輸入自由化によって衰退の一途をたどりました。しかしその後、輸入レモンに防かび剤として使われるオルトフェニルフェノール(OPP)・チアベンダゾール(TBZ)などのポストハーベスト(収穫後に用いられる残留農薬)が問題となり、'80年代から生協の産直活動とも結びついて、国産レモンの栽培が復活・発展してきました。
とまあ、ここまでは以前に読んだ生協関係の書籍やインターネットで調べた事の請け売りなんですが、実際は<言うは易く行なうは難し>の部分も少なからずあるのです。まず、経済のグローバル化の流れの中で、産直と言う連帯経済の手法でどれだけ対抗していけるのか−という問題があります。
鹿児島県のマルイ農協の例をあげます。この農協は鹿児島県北部の大規模農協で、卵・鶏肉とその関連商品(冷凍チキン・卵黄スープなど)が主力商品です。全国のたまご生産高の約1割を生産しており、主に全国の生協に出荷しています。マルイの卵の特徴は、自家配合飼料を使って、約450日齢(注:ヒナ鶏が産まれて成鶏になり産卵するまでの日数)くらいの新鮮な卵を供給しています。ちなみに市販のスーパーなどで売られている卵は500〜600日齢ぐらいの古いものが殆どです。ここで少し蛇足ですが、卵の<新しい・古い>の見分け方って知っています? 黄身の色が濃くて白身が盛り上がっているのが新しいのです(卵黄係数やハウユニットという数値で比較します)。
当然、コストはかかりますね。今でこそ卵の価格が高騰していますので消費者にとってはあまり有り難味が感じられないでしょうが、以前はスーパーで10個入り1パック×0円とかで安売りしていたでしょう。この不景気のご時世では、消費者はどうしても「多少悪かろうが安い」方に流れます。
某酪農牛乳の例。'00年の雪印乳業の食中毒事件の時は、生協と産直供給しているこの酪農牛乳に注文が殺到しました。生産が追いつきません。毎日フル稼働で操業している中で、牛乳パックのピンホール(パック漏れ)のクレームが多発しました。私のいた生協でも、配送現場の方からは「なんとかしろ」というクレームがじゃんじゃん上がってきます。私は当時、現場で商品管理の担当をしていましたので、その現場の声を本部事業部のバイヤーにぶつけ、当該農協担当者からも報告書をあげさせたりしましたが、なかなかクレームが減りませんでした。その中で事業部のバイヤーが言った事−「大手資本に切り替えれば牛乳パックのクレームなどはすぐ解消する、でもそういう訳にはイカンやろ、産直はみんな切り捨てるんか?」 その時は「何言うてんじゃ」と思いましたが、確かにその通りなのです。別に産直だからと言って大目に見るというのではないのですが、産直の相手と言うのは大抵中小・零細業者なのです。大独占資本と比べれば競争にならない。さりとて消費者・組合員の事を考えると「はい、そうですか」なんて事にはならない。
また、減農薬・有機農法の商品を扱っているという事は、代替がきかないという事でもあります。病虫害や、今年の様に台風被害が多発しても、市販品のように他の産地や輸入品に切り替えられないのです。勢い「遅配・欠品」が多発する。勿論、どうしようも無い時はそうしますが、それを安易には出来ない部分が生協にはあるのです。「(安全・安心・適正価格という)思想を持った商品」を簡単に欠品には出来ない−という部分が。
という事で、生協を退職してまた今頃<食・農の問題>で投稿する羽目になるなどとは思っていなかったので、当時の記憶を辿りながら付け焼刃で本を読みネットで調べているのですが、僅か数年の間の変化も小さくは無かったのです。「思想を持った商品だ」と言っていた生協が今や配送は委託・派遣の女性パートの仕事になり、「減農薬」自体が曖昧・いい加減だったという事で商品案内のチラシからヘルシーべジタの表示がなくなり、「共同購入」が共働き世帯の激増で立ち行かなくなり、「個配」「夜間配送」も世帯利用減・コスト増・採算割れで困難に直面し、「産直に未来はあるか」なんて議論まで起こっているという・・・。 生協産直の形をとった連帯経済の活動が、効率・利潤優先で弱肉強食の「資本の論理」に基づくグローバル経済に、どれだけ風穴を開ける事が出来るか−という事を見てきたのですが、調べれば調べるほど奥が深くキリがないので、もうここで一旦一休みします。連帯経済との関係や、(アラミスさんには悪いのですが)中国産輸入農産物の問題にまでは辿りつきませんでした。という事で、後は北朝鮮・中国・チベット専門家のまことさんにタッチ!(笑)
PS: 検索作業の中でたまたま見つけた面白そうなサイト。どんなサイトかは私もよくわからないのですが、何か面白そうだったので紹介しておきます。 http://www.suzuki31.com/etc/index0.html
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29 3.1ビキニデー
(2005年2月28日) |
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明日は3月1日ということもあり、ここで3.1ビキニデーの取り組みについて少し書いてみます。
ビキニ事件についてはご存知の方も多いと思います。1954年3月1日に、静岡県焼津港のマグロ漁船「第五福竜丸」が、太平洋のマーシャル諸島(現在はマーシャル諸島共和国)のビキニ環礁で米国が行った史上最大の水爆実験による死の灰を浴びて、乗組員23名全員が被曝して急性放射能症にかかった事件の事。故・久保山愛吉さんの「原水爆の犠牲者は私を最後にしてほしい」という言葉は有名ですね。この事件を機に日本では原水爆禁止運動が盛り上がり(その年に始まった原水禁署名が翌年4月頃までに3300万以上に達した)、翌年8月の第1回原水禁世界大会開催のキッカケになりました。ついでに付け加えると、当時日本で最初に上映された怪獣映画「ゴジラ」はビキニの水爆実験が映画の背景になっていますし、'60年代から流行り出した「ビキニ水着」も当時の世相が受けた衝撃の大きさからその名が付けられたものです。
このビキニ事件については、ロンゲラップ島などマーシャル諸島一体住民の放射能被害の問題や、高知県のマグロ漁船など他にも800隻以上の日本漁船が被爆している事、米日政府がマーシャル諸島住民と第五福竜丸被災者にそれぞれ、僅かばかりの「掴み金」「経済援助」を供与しそれと引き換えに被害実態をもみ消そうとした事(この事で第五福竜丸被災者は周囲から妬み差別を受けることになる)などの事実が指摘されてきました。
しかしそのような逆流にも関わらず、静岡の運動は広島・長崎と並んで日本の平和運動をリードしてきました。ビキニデーは故・久保山愛吉さんの墓前祭行事を中心に毎年取り組まれ、静岡では生協などの市民団体と平和運動団体との共闘が先進的に取り組まれてきました。実際、私も生協職員時代に市民平和行進のリレー行進者として静岡県下を1週間歩いた事があるのですが、何度となく地元の人からカンパをされました。
「戦争体験の重さや想像力(イマジン!)」の風化が指摘される昨今。「奴隷の平和」の名で平和憲法の価値が貶められ、「国際貢献」を装った「戦争の出来る国作り」が進められ「国の為に命を捧げる事の尊さ」まで押し付けられようとする今日この頃ですが、改めて「平和」「人権」「民主主義」の尊さを思い起こす必要があるのではないでしょうか。
【参考資料】 ・ビキニ市民ネット焼津 http://www5d.biglobe.ne.jp/~kazkato/fukuryumaru/index.htm ・3.1ビキニデー http://love9cafe.gooside.com/bikini.htm ・東京都立第五福竜丸展示館 http://www.d5f.org/ ・ロンゲラップ平和ミュージアム http://www9.plala.or.jp/jojoi/html/Japanese/level%202/jhome.htm
付記 そもそも「平和」「人権」「民主主義」の3つは互いに切り離せないものであって、そのどれが欠けても他の2つは成り立たない。「奴隷の平和」なんて事自体、本来はあり得ない(そんなモノは平和の名に値しない)のです。だから「プロ奴隷」(ネットウヨク)は「平和・人権派」と一括りにして攻撃してくるのであって、そこが「プロ奴隷」の奴隷たる所以でもある訳です。
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30 もう一つの世界、もう一つの日本
(2005年12月16日) |
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米国産牛肉輸入再開にしても耐震強度偽造にしても、何が一番腹立たしいかといえば「人の生命を一体何だと思っているのか!」という事です。前者は米国への忠義立てによって手前たちがそのお零れに預かる為に、後者も手前たちの利益と保身の為に、それぞれ人の命を犠牲にしても憚らないという事でしょう。それで犠牲になるのはいつも庶民。そう考えると、もうアホらしくてやってられない。
しかもそこには国が常に一枚噛んでいる。牛肉輸入再開にしても耐震偽造にしても、いかにも国が公正・中立・第三者の立場で審議しているかのような体裁をとりつつ、実際は業界ぐるみの悪徳商法に対してお墨付きを与える役割を果たしているにしか過ぎないのです。食品安全委員会で発言権を握っているのは米国とそのお零れ頂戴の吉野家などの外食チェーンの息のかかった委員であり、民間検査機関を牛耳っているのも国交省の天下り役人や業界からの出向役員などです。それが政官業癒着の「国家独占資本主義」という政治体制のしくみ。その下で「越後屋、そちもワルじゃのう」「いえいえ、お代官様の方こそ」と当事者同士がガハハハハと笑い、人の命、人間の生存権を平然と弄ぶ。
そういう政官業癒着は昔から今もずっと続いていますが、それに対する国民の不満・政治不信の高まりに対応して不満逸らしの為に登場してきたのが、「自民党をぶっ壊す」と言って出てきた小泉純一郎。明治維新の時の「ご一新」よろしく、森や小渕までの旧来保守の利権政治を一掃してくれるような幻想をさんざん振りまきました(今でも)。
しかし、彼が実際にやったことは、旧来の政官業癒着・派閥中心・利権分配政治を、より米国資本主義標準に近い奥田やホリエモンによる新自由主義の弱肉強食政治に置き換えただけでした。謂わば、時の支配者が幕府から天皇に変わり、悪徳商人が越後屋から三河屋に変わっただけ。この辺も、支配者は変わっても民衆支配の構図は変わらず、民衆は四民平等や文明開化の副産物と引き換えに以後1945年までずっと帝国主義戦争に巻き込まれていった日本民衆の苦難と重なります。
米国資本主義標準の新自由主義の下では全てが市場原理最優先であり、人の命や人間の生存権・社会的権利の保障は二の次なのです。負け組が勝ち組に這い上がる為には常に他人を蹴落とし、どんな理不尽な事でも自己責任の名で耐えなければならないのです。そして政府は全てを弱肉強食の民間市場原理に委ね、ひたすら軍事と治安に偏重し社会福祉・社会保障の責務を放擲した「小さな政府」という名の夜警国家・米帝植民地政府に成り下がるのです。多分今回の一連の不祥事でも、やがてトカゲの尻尾きりで幕引きが為され、その次には「BSEに感染したのは健康管理を怠った人間の自己責任」「欠陥マンションをつかまされたのも安かろう悪かろうに流れた人間の自己責任」なんて風潮が意図的・政策的に流されて、為政者の責任がウヤムヤにされるに決まっています。現に今も武部がそれに近い事を言っているでしょう。
それに抗して、旧来の復古反動・利権分配の保守政治でも、オルガリヒ(新興資本家)による米国属国の海外派兵・弱肉強食政治でもない第三の道、「もう一つの世界」「もう一つの日本」をめざす動きが、世界と日本の各地で始まっています。その一つが、今回の香港で爆発した反WTOの運動です。
貿易取引に関する国際機構であるWTO(世界貿易機関)は、世界銀行・IMF(国際通貨基金)・FTA(自由貿易協定)などと同様、実際には資本主義大国による第三世界に対する帝国主義的支配の場、世界標準の名による新自由主義の押付けの場として機能し続け、「公正な貿易」「民主的な国際関係」「持続可能で環境にやさしい経済」の実現を要求する第三世界諸国や資本主義大国の自覚的労働者・農民の声と対峙してきました。それ故に近年では、ジェノバ・シアトルと閣僚会議開催のたびに激しい反グローバリズム運動の洗礼を浴びてきました。今回の香港でも、「不公正」な既存秩序を維持する側と「公正」経済を要求する側とが激突しました。
今回の香港行動では、韓国・民主労総、台湾・労工陣線を始めアジア各地の労働者・農民が参加しています。日本からも、農民連・食健連・AALA連帯委員会などの共産党系からレイバーネット・ATTACジャパンなどの新左翼・独立系左派までが抗議行動にはせ参じ、期せずして左翼統一戦線が一時的に形成された形になっています。それら参加諸団体の具体的要求項目はいずれも、アグリビジネスや先進工業国による途上国経済支配、不等価交換、モノカルチャー経済、債務奴隷化、飢餓輸出、金融操作、環境破壊に対する規制や、各国の食糧主権擁護などですが、その底流にあるのはやはり弱肉強食の帝国主義・新自由主義的経済秩序に対する抵抗です。
人の生命を一体何だと思っているのか! 公正で民主的な貿易・取引・経済を! 人間らしい暮らしを! BSEや欠陥マンションを生み出す不公正・殺人経済、金儲けの為なら何でもありの新自由主義はゴメンだ! 大企業やアメリカ様の為に、殺されて堪るか! 戦争も差別も、安倍も奥田も、靖国ゾンビもネオコンも、真っ平だ!
・香港:WTO抗議で大衝突、けが9人心臓発作2人(サーチナ・中国情報局) http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=1214&f=business_1214_006.shtml ・香港の反WTO運動情報ページ「抗議世貿」が掲載されたATTACジャパンのサイト http://www.jca.apc.org/attac-jp/japanese/ ・香港WTOレポート〜日本から170名以上が参加(レイバーネット) http://www.labornetjp.org/news/2005/1134543877084staff01 ・WTO香港行動参加者 私の一言>新聞「農民」記事データベース>農民連 http://www.nouminren.ne.jp/
・WTO・反グローバリゼーション運動関連 参考資料 ・WTO(世界貿易機関)>対外経済政策総合サイト http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/index.html ・世界貿易機関(WTO)について http://organization.at.infoseek.co.jp/aboutwto/ ・WTO関連資料>WTO氷結キャンペーン>アシードジャパン http://www.aseed.org/trade/wto.htm ・世界社会フォーラム情報ページ http://nvc.halsnet.com/jhattori/wsf/ ・ヤパーナ社会フォーラム http://www.kcn.ne.jp/~gauss/jsf/
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